【スタートアップの本場 アメリカから見る】日本のスタートアップ企業の現状と課題

前回は、スタートアップの本場 アメリカから、なぜ次々とスタートアップ企業が生まれるのかを考察しました。

【スタートアップの本場 アメリカへ海外進出】スタートアップ企業がアメリカから次々と生まれる理由

世界を変える製品やサービスは、不況の時に生まれることは珍しくありません。Apple(1976年創業)は、ドットコムバブルが崩壊した2001年頃に、現在のiPhoneに通じるデバイスiPodを開発し、現在に至るまで成長し続けています。Airbnbは、世界的な株価下落、金融不安(危機)、同時不況を引き起こした2008年リーマンショック時に起業しています。2009年には、モバイル決済/端末サービスとして有名なSquare、社内コミュニケーションツールとして有名なSlack、ライドシェア大手のUberが起業し、消費者の行動を変えるサービスを提供しています。

現在急速な円安が進み、先行きに不安を抱える企業様は多いかもしれませんが、味方を変えれば、新規事業開発や社内ベンチャーを起こす絶好のタイミングであると言えます。そこで今回は、スタートアップの本場 アメリカと比べて、なぜ日本から世界の席巻するスタートアップが生まれないのか、その原因について検証してみたいと思います。なお、ミシガン州経済開発公社では、海外展開・アメリカ進出を検討しているスタートアップ企業のサポートも行なっています。お気軽にお問い合わせください。

スタートアップ・エコシステムとは?

スタートアップ・エコシステムとは、大企業や大学、公的機関などが連携をとり、スタートアップ企業を支援するシステムです。日本は諸外国に比べ、スタートアップ企業が少なく、世界的な競争力の低下が問題となっています。その原因として、そもそもスタートアップ・エコシステムが確立しておらず、起業しづらい状況にあると言われています。

参考:スタートアップ・エコシステムの現状と課題
参考:日経ビジネスー小林史明衆院議員、スタートアップ育成計画の真意を語る

この状況を鑑み、岸田内閣は成長戦略の一つとして、イノベーション(スタートアップ)の支援を掲げて、日本が直面する社会課題を成長のエンジンへと転換し、持続的な成長を実現させるために動き出しています。

参考:成長戦略 | 首相官邸ホームページ
参考:世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略

日本でも、海外での取り組みを参考に、エコシステムの構築が進んでいます。スタートアップ支援、ユニコーンの輩出を目標にしています。制度と優秀な人材のアイディアがマッチすれば、日本からも世界の消費者の行動を変化させるようなサービスが生まれるのではないかと思います。

なぜ日本でユニコーン級のスタートアップ企業がなかなか生まれないのか?

①起業(スタートアップ)に対する意識の低さ

2022年現在、日本では今も、いい大学から大企業へ就職するという昭和の価値観が大勢を占めています。人と違うことを推奨する風潮、チャレンジすることへの賞賛、リスクに対する理解やリスクヘッジ・サポートが遅れています。これは、比較的裕福な時代に育った若い世代の問題、という一言では片付けることはできません。

小・中学校の義務教育、高校・大学の進学率は向上した一方、青年期に起業を意識する機会がどれほどあるでしょうか?
・受験偏重教育画一教育=問題解決する力や、得意な才能を伸ばす教育が浸透していない
・新卒一括採用制度=キャリアの多様性が生まれにくい
・英語教育=外国人登用が進まないだけではなく、欧米の情報や最新事例へアクセスしにくい

一般慣習や社会構造もスタートアップが生まれにくい状況を生んでいます。
・終身雇用制度=転職や一度退社してチャレンジした社員が、再度職場に復帰しにくい
・年功序列制度=年齢を重ねるごとに一定賃金が上がる/下がることはないという賃金体系のため、チャレンジを抑止する
・長期同一社勤務を善とする制度や慣行=1社での勤務経歴の長さをことさらに重視・有利に扱う各種制度や慣行
・副業・兼業の禁止=大企業の社員が自らのスキルを社外の多様な環境で活かす機会の剥奪(近年、是正の傾向)
・連帯保証人制度=リスクの高いスタートアップビジネスにも関わらず、失敗ややり直しを許容しない

その他
・外国人に対する制度適用の不均衡=言語、ダイバーシティ、インクルーシブ(社会的包摂)、ビザ、教育、医療制度など

日本では、世界と引けを取らない基礎研究が行われています(例:量子コンピューター、3Dプリンター、ペロブスカイト太陽電池など)が、それを実用化しビジネスと結び付ける、スタートアップマインドが不足しています。若い内に起業やスタートアップについて学べる機会を設けることだけでは解決しない、根深い社会的問題を抱えています。社会全体で起業に対する意識を変えていくことが求められます。

②ベンチャーキャピタルの不在

日米の人口統計や市場規模の違いは考慮しなければいけませんが、日本のベンチャーキャピタルのスタートアップ投資額は、アメリカとは比較にならないほど小さいです。エンジェル投資家やメンターとなる人材も不足しています。「卵が先か鶏が先か」論になってしまいますが、スタートアップが少なければ投資先はなく、起業家が育たず、結果エンジェル投資家やメンターとなる人材も不足し、結果日本のスタートアップは少ない、という負の連鎖となっています。

ベンチャーキャピタルとは、ベンチャー企業やスタートアップ企業など、高い成長が予想される未上場企業に対して出資を行う投資会社のことです。未上場時に投資を行って、投資先の企業が上場や成長した後に株式を売却もしくは事業を売却して、キャピタルゲイン(当初の投資額と株式公開後の売却額との差額)を得ることを目的としています。また、ベンチャーキャピタルは資金投下と同時に、ハンズオンと呼ばれる経営支援を行うことで企業の価値向上を図り、キャピタルゲインがより高まるような支援を行います。

*契約内容の詳細に依りますが、創業者には基本的に返済の義務はありません。

エンジェル投資家とは、創業間もない企業に対して資金を供給する個人投資家のことです。ベンチャーキャピタルが投資対象としないような創業間もない段階で、スタートアップ企業に対し、資金提供(シードラウンドやAラウンド)を行います。投資金額を全て失いかねないハイリスクではあるものの、スタートアップ企業がユニコーン企業となった場合には、莫大なリターン(最低でも10倍以上)を受けることができます。

日本はアメリカから10年遅れているという比喩がありますが、現在では、岸田内閣の成長戦略の一つとして、スタートアップ支援があげられており、大学や地方自治体、ベンチャーキャピタルとの連携により、資金調達を土壌整備が進められています。優秀な人材はいつの時代にも存在しますので、今後日本から世界を代表するスタートアップ企業が輩出されることが期待されます。

日経ビジネス:ユニコーン不足の日本、なくせるか「起業家に不利な金融契約」

③キャリアプランや将来の夢

昔から「いい大学に進学し、いい会社に就職」「優秀な若者に限って大企業志向」「一般的に安定思考が強い」傾向があり、2022年の現在も、その慣習は受け継がれています。

江戸時代の制度では、士農工商を江戸時代の身分制度と捉え、商売人が一番低い地位であったと教育されていました。(誤認識だったとして、現在は削除されています)その影響からか、商売(ビジネス)やお金を稼ぐことについて、どこかポジティブなイメージがありません。そもそも、お金得ることは提供した価値に対する対価で、決して疚しいことではありません。

子供の頃に、将来の夢に関するアンケートを受けたことがある方は多いかと思います。どこまで真剣に将来のことを考える機会があるかは、メディア、親や親戚、学校(教師や学習科目)、取り巻くコミュニティ(育った環境・地域)に影響されますが、どのような職業がランキングされているでしょうか?

一例:
・会社員
・パティシエ
・YouTuber/動画投稿者
・教師/教員
・サッカー選手
・幼稚園の先生/保育士
・ゲーム制作
・野球選手
・漫画家
・鉄道の運転士
・料理人/シェフ
・警察官
・看護師
・公務員
・芸能人/アイドル
・ITエンジニア/プログラマー
・医師…

記入式か選択式か分かりませんが、成長過程で経験すること、見聞きすることに大きく影響を受けることが分かります。将来の職業と必ずしも結び付くとも限りませんが、まず起業家(アントレプレナー)がランクされることはありませんし、そもそも起業家が職業として認識されているかも怪しいものがあります。日本版イーロン・マスクとは言いませんが、起業家に憧れを抱くきっかけとなる、ロールモデルの存在が求められます。

アメリカの子供達の将来の夢に関するアンケート(一例)です。アメリカらしく、映画などのエンターテインメントに影響を受けていることが分かりますが、日本の子供と大きく異なる訳ではありません。ただ回答の中にビジネスオーナーがランクインしています。職業として、ビジネスオーナーを男女ともに認識しているところが、凄いところだと思います。上記、日本の子供たちの回答では、会社員という回答です。仕事は既にあることが前提で、勤めることが当たり前、自分で事業をするという選択肢を知らないか、世の中の問題を自分が解決すると意識するきっかけがないのです。

zety: Childhood Dream Jobs [2021 Study]

④教育(文化)

優秀な人材や起業しようという人材は、いつの時代も存在します。ただ、全体的に日本人の起業意識は決して高くはありません。

日本では、いつの時代も優秀な起業家・経営者は存在するものの、若い世代との接点は少なく、結果なかなか意識する機会もなく、ロールモデルが圧倒的に不足しています。憧れの起業家は誰ですか?と聞かれて、何人の名前をあげることができるでしょうか?

アメリカの有名な経営者
スティーブ・ジョブズ(Apple共同創業者)
ビル・ゲイツ(Microsoft共同創業者)
ウォーレン・バフェット(投資家)
ジェフ・ベゾス(Amazon共同創業者)
イーロン・マスク(SpaceX共同創業者)
マーク・ザッカーバーグ(Facebook共同創業者)
ラリー・ペイジ(Google共同創業者)
ラリー・エリソン(Oracle共同創業者)
トラビス・カラニック(Uber共同創業者)
ブライアン・チェスキー(Airbnb共同創業者)
リード・ヘイスティングス(Netflix共同創業者)
ジャック・ドーシー(Twitter共同創業者)

例えば、Stanford Graduate School of Businessでは、第一線で活躍する経営者、投資家、各業界のトップランナーを招き、インタビューを行なっています。スタートアップ・エコシステムのお手本のような一例ですが、動画はYouTubeにもアップされており、検索さえすればこういう情報へアクセスすることが可能なのです。

起業に対する教育についての問題点
・家族で見られる、ビジネス関連のメディア番組が少ない
・学生時代に、投資や金融を学ぶ機会や、起業家に接する機会が少ない
・日本の大学が、米国の大学とは違って、スタートアップを生むようなイノベーションのエコシステムの核になっていない
・有名な企業に就職すれば、生活はある程度補償され、あえて辞職して起業する理由もない

ユニコーンが少ない理由
・日本のスタートアップ起業家の志は低く、国内規模、マザーズ上場で満足してしまう
・日本国内だけをターゲットとしたスタートアップでは、スケールアップに限界がある

スタートアップについて、日本は世界に比べ遅れている傾向にありますが、才能ある人材はいつの時代も存在し、プラットフォームを整えればそれに対応する能力があります。文部科学省では、スタートアップの担い手となる人材を育成すべく、「アントレプレナーシップ教育(「自ら課題を発見し、自分事として捉えて解決する」能力や姿勢)」に力を入れています。大学においても「社会のニーズを踏まえ、課題解決・価値創造のできる人材を育てよう」という流れが進んでいます。
スタートアップ・エコシステム形成支援 大学発新産業創出プログラム(START)
出資型新事業創出支援プログラム「SUCCESS」

⑤移民政策

出入国在留管理庁によると、令和3年末現在における中長期在留者数は246万4219人、特別永住者数は29万6416人で、これらを合わせた在留外国人数は276万635人となり、前年末(288万7116人)に比べ、12万6481人(4.4%)減少したそうです。ーウェブサイト

移民とは「当人の (1) 法的地位、(2) 移動が自発的か非自発的か、(3) 移動の理由、(4) 滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動している、または移動したあらゆる人」と定義されています。

国連人口課の統計(2020年)によると、日本には約277万人の外国人が居住しています。諸外国を見てみると、アメリカは約5063万人、ドイツは約1577万人、イギリスが約935万人、フランス約852万人、カナダ約805万人、オーストラリア約769万人となっており、先進国の中ではそれほど多くはありませんが、今後は優秀な外国人労働力を積極的に活用する政策が求められます。ただ、日本ではまだまだ受け入れる側の体制が十分ではなく、外国人労働者を取り巻く様々な問題(低賃金、長時間労働、人権、差別など)を是正する必要があります。単に個々の労働環境だけでなく、生活環境(教育や医療)の整備、文化の教育・尊重、社会保障(保険や年金)、地域の安全問題にも関連します。SDGs(持続可能な開発目標)の遵守が叫ばれていますが、その実現にはまだまだ多くの課題が残されています。

参考:JAPAN SDGs Action Platform | 外務省

日本の解釈で移民と外国人技能実習生を分けていたり、基本的に移民は受け入れないスタンスをとっていますが、優秀な人材の確保は必須事項です。日本の労働力は減少していくことは避けられません。単純作業についてはAIやロボットの進歩により補うことが可能かもしれませんが、世界での競争力向上、持続的に経済成長していくためには、既にある事業を育てるだけでなく、新たな事業・価値を創造しなくてはなりません。そのために世界の優秀な人材を誘致し、活用することが求められます。

番外編:コロナ禍の中、成長した企業

最後に番外編として、ファイナンシャルタイムズが発表した、2022年アジア・パシフィックエリアで急成長した企業トップ500の記事をシェアさせていただきます。日本企業は500社中約170社を占め、国別でトップとなっています。ただ、中国が対象外(正確なデータ入手が困難?)となっているので、実際は中国の独占状態なのかもしれません。

参考:FT ranking: Asia-Pacific High-Growth Companies 2022

日本の注目ユニコーン企業

海外進出 アメリカ進出 スタートアップ ベンチャー企業 ユニコーン

Preferred Networks(PFN)は深層学習などの最先端の技術を最短路で実用化することで、これまで解決が困難であった現実世界の課題解決を目指しています。ーウェブサイト

海外進出 アメリカ進出 スタートアップ ベンチャー企業 ユニコーン

健康寿命の延伸のための電子カルテプラットフォーム。ーウェブサイト

海外進出 アメリカ進出 スタートアップ ベンチャー企業 ユニコーン

世界中の膨大な情報を日夜解析し続けるアルゴリズムと、スマートデバイスに最適化された快適なインターフェースを通じて、SmartNewsは世界中から集めた良質な情報を、一人でも多くの人々に届けていきたいと考えています。ーウェブサイト

海外進出 アメリカ進出 スタートアップ ベンチャー企業 ユニコーン

私たちは、誰もが心地よく、健康に、そして幸せに働ける社会を目指し、テクノロジーと創意工夫で、日本の労働を一歩ずつアップデートしていきます。ーウェブサイト

海外進出 アメリカ進出 スタートアップ ベンチャー企業 ユニコーン

最先端プロセス技術を用いて半導体を設計・開発。ーウェブサイト

アメリカ進出ならミシガン州経済開発公社にお任せください

ミシガン州経済開発会社では、アメリカ・ミシガン州へ進出される企業様に下記サポートプログラムをご用意しております。
・ミシガン州ビジネス発展プログラム
・「経済のガーデニング」プログラム
・GOOD JOBS FOR MICHIGAN
・ミシガン州インセンティブプログラム

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