【アメリカ進出に向けて】サプライチェーン・マネジメントの重要性と改善策

2020年に世界に広がった新型コロナウィルスの影響によって、アメリカだけでなく、世界中の製造業がサプライチェーン問題に直面しました。Bain & Companyのレポートによると、米国企業は年間6800億ドルを中国、及び東アジアからの輸入に依存しているそうです。アメリカ・バイデン政権は、国内製造業の活性化と重要製品のサプライチェーンの強化に向けた取り組みを発表しています。

2021年2月、ジョー・バイデン大統領は重要製品のサプライチェーンに関する大統領令に署名し、各省庁に対して各分野のサプライチェーンの評価と強化策の提案を求めました(2021年2月24日記事参照)。そして、大統領令署名から1年以内に見直しを行うよう要請されていたエネルギー、運輸、農産物・食料生産、公衆衛生、情報通信技術(ICT)、防衛の6分野において、関係する省庁がサプライチェーンの強化戦略を策定しました。

The White House – The Biden-⁠Harris Plan to Revitalize American Manufacturing and Secure Critical Supply Chains in 2022

この動きは、米国政府が国内サプライチェーンの脆弱性を認識し、国内生産能力と供給の安定性を高めるための具体的な対策を進めていることを示しています。特に、エネルギー、運輸、農産物・食料生産、公衆衛生、ICT(Information and Communications Technology)、防衛という重要な分野において、サプライチェーンの強化が焦点となっています。これにより、アメリカは国内での生産や供給基盤の整備を通じて、重要製品における依存度の低減と経済の安全保障の向上を目指しています。また、地域の災害や緊急事態にも柔軟に対応できる強靭なサプライチェーンの構築も重要な目標です。

以前は、事業戦略により低コストの労働力、海外市場へのアクセス(輸送費や関税を削減)やリスク分散(天災、地域の災害や政治的な不安定要素などのリスク)を目的として、国内工場の海外移転の動きが多く見られました。2023年現在、国際関係(米露関係・米中関係など)・国際情勢(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など)の不安定化により、重要製品における依存度の低減と経済の安全保障の向上を目指しています。

下記、一例を挙げます。

Apple Inc.(アップル): iPhoneやiPad、Macコンピュータなど、アップルの象徴的な製品の多くが中国で製造されています。特にFoxconn(本社は台湾)が運営する中国の工場(Zhengzhou)は、アップルのハードウェアコンポーネントの大部分を生産し、最終製品を組み立てる役割を担っています。
*アップル向けにチップの設計・製造をしているTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、アリゾナ州の半導体工場に120億ドルを投資し、アメリカで最も先進的なチップ工場を建設予定です。
*Foxconnは、生産の一部を中国本土からインド、東南アジア、アメリカの新しい拠点への移行を進めており、生産能力を一国に依存しないようリスク分散を図っています。

Nike(ナイキ): 世界最大のスポーツウェアメーカーであるナイキは、中国、ベトナムとその他アジアの国で製造されています。中国はナイキにとって重要な生産拠点であり、同社の靴やアパレル製品の製造が行われています。

Walmart(ウォルマート): 世界最大の小売業者であるウォルマートは、中国の製造業者から多くの商品を調達しています。同社は中国のサプライヤーから電子製品、衣料品、家具、生活用品など、幅広い製品を輸入しています。

General Electric(GE): GEは多国籍の総合企業であり、さまざまな製品において中国の製造業に頼っています。家電製品、照明製品、医療機器、発電機器などがその一例です。

上記は、異なる業界におけるアメリカ企業が中国の製造能力やコスト効率、広大な消費市場(中国の推計人口は14億人以上)へのアクセスを活用するために、中国とのパートナーシップや製造拠点を確立していることを示しています。ただし、中国の製造業に依存することは、サプライチェーンのリスクや貿易摩擦、地政学的な考慮事項のため、上記で触れたようにバイデン政権はサプライチェーンの強化戦略を進めています。

参考:Fortune Business Insights – 世界のサプライチェーン管理市場規模

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サプライチェーン・マネジメントとは?

サプライチェーン・マネジメントの概要

サプライチェーン・マネジメント(CMS=Supply Chain Management)は、商品販売における一連のサプライチェーンを管理する経営手法です。サプライチェーンとは、原材料が調達され、商品が私たちの手に届くまでのモノ・お金の一連の流れを指します。具体的には、原材料・部品の調達、生産、物流・流通、販売といったプロセスが含まれます。

サプライチェーン・マネジメントでは、単にサプライチェーンを分割して考えるのではなく、全体を統括し、情報を連携させながらプロセスの最適化を図ります。これにより、各段階の効率化や品質管理の向上、在庫の最適化、リードタイムの短縮などが実現されます。

また、サプライチェーン・マネジメントは、サプライヤーとの良好な関係構築や協力体制の構築、リスク管理の重要性も考慮します。災害や供給不足などの予期せぬ事態に対応するためのリスクマネジメント策や代替供給先の確保なども重要な要素となります。

サプライチェーン・マネジメントの目的

サプライチェーン・マネジメントの最大の目的は、過去の販売数や顧客ニーズなどのデータをもとに、「必要なものを、必要なときに、必要なだけつくる体制」を整えることです。これにより、以下のような生産性の向上が期待されます。

  • リードタイムの短縮: サプライチェーン内の各プロセスやパートナーの連携を強化し、製品が顧客のもとに迅速に届くようにします。
  • 過剰在庫・欠品の防止: 需要予測や生産計画を精緻化し、在庫の最適化を図ることで、過剰在庫や欠品のリスクを低減します。
  • コスト削減: サプライチェーン全体の効率化やムダの削減により、生産や物流にかかるコストを最小限に抑えます。

サプライチェーンにおいて、サプライヤーやメーカー、物流業者がそれぞれ部分最適で動いた場合、円滑な連携が難しくなる可能性があります。その結果、消費者への商品到達までの時間が長くなり、ビジネスの停滞を招く可能性もあります。

このような問題を防ぐためには、企業や部門、工程ごとではなく、サプライチェーン全体の最適化が重要です。そのためには、サプライチェーン内の各企業が組織や会社の壁を越えた連携を図り、運命共同体として協力して取り組む姿勢が欠かせません。統合的な情報共有や効果的なコミュニケーションが実現されることで、サプライチェーン全体のパフォーマンスと顧客満足度を向上させることができます。

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サプライチェーン・マネジメントが注目されている背景

  • ビジネスのグローバル化: 近年、日本企業も世界市場に参入し、原材料の調達や生産拠点の海外移転が活発化しています。このグローバル化に伴い、サプライチェーンがより複雑になり、国境を越えた効率的な物流や調達の管理が求められています。サプライチェーン・マネジメントは、異なる国や地域の取引パートナーとの連携を強化し、スムーズなフローを確保する役割を果たしています。
  • 労働人口の減少: 特に運送業界では、少子高齢化によるトラック運転手の人手不足が深刻化しています。さらに、2024年には自動車運転の時間外労働制限も導入されるため、長距離配送に課題が生じるでしょう。これらの労働力の減少に対応するためには、サプライチェーン・マネジメントを通じて効率的な物流ネットワークの構築や自動化技術の導入が重要です。ロボットや自動運転技術の活用により、労働力不足の影響を軽減し、生産性と効率性を向上させることができます。
  • ビジネスモデルの変化: 近年、インターネット販売やSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel =エスピーエー/製造小売業=製造業が販売までを直接手がけるビジネスモデル)、プライベートブランドなど、顧客ニーズを安価かつ迅速に満たす新しいビジネスモデルが台頭しています。これらのビジネスモデルは、効率的なサプライチェーンの構築を要求します。生産・調達・物流のプロセスを最適化し、迅速な製品供給と在庫管理を実現することが求められます。サプライチェーン・マネジメントを通じて、顧客の要求に迅速かつ効率的に対応することが重要です。

さらに、サプライチェーン・マネジメントの注目度が高まっている理由として、以下の要素が挙げられます。

  • 環境への配慮とサステナビリティ: サプライチェーンの持続可能性がますます重要視されています。企業は環境への負荷を軽減するために、エコフレンドリーな製品の開発や再生可能エネルギーの活用など、サプライチェーン全体の持続可能性を向上させる取り組みを行っています。サプライヤーの選定基準や環境への影響評価も重要な要素となっており、サプライチェーン・マネジメントにおいて環境への配慮が不可欠です。
  • 技術革新とデジタル化: デジタル技術の進歩により、サプライチェーンの可視化、データ分析、予測能力の向上が可能となりました。AIやビッグデータ分析、IoT(モノのインターネット)などの技術を活用することで、サプライチェーンの効率化とリアルタイムな情報共有が実現されます。これにより、需要予測や在庫最適化、物流ルートの最適化などのサプライチェーン上の課題に対して迅速かつ正確な解決策を導き出すことが可能となります。
  • 予測できないリスク管理への備え: パンデミックや自然災害、国際紛争など、予測困難なクライシスが企業に影響を与える可能性があります。これらのリスクに備えるために、企業は事前のリスク評価やビジネスコンティニュイティ計画を策定し、サプライチェーンの強靭性と迅速な回復力を確保する必要があります。柔軟なサプライヤーネットワークの構築や代替物流ルートの確保、リスク管理の強化が重要な取り組みとなります。

サプライチェーン・マネジメントを導入する4つのメリット

コスト削減:
サプライチェーン・マネジメントにより、原材料の調達コストや物流コスト、在庫管理コストなどを最適化することができます。効率的な生産プロセスやリードタイムの短縮、在庫の最適化などを通じて、コスト削減の機会が生まれます。また、適切なサプライヤーとの契約交渉やリスク管理の戦略的な実施により、コスト効率を向上させることも可能です。

生産性の向上:
サプライチェーン・マネジメントは、生産プロセスの最適化と効率化に役立ちます。生産計画の適切な調整、リソースの効果的な配置、生産ラインのスムーズな稼働などを通じて、生産性を向上させることができます。また、データ分析や予測能力の活用により、需要予測の精度を高め、生産量と在庫レベルを適切に調整することも可能です。

品質管理の向上:
サプライチェーン・マネジメントにおいては、品質管理の重要性も高まります。適切なサプライヤーの選定や品質基準の策定、品質検査の実施などを通じて、製品の品質を確保することができます。品質の向上により、不良品の発生やリコールのリスクを軽減し、顧客満足度を向上させることができます。

リスク管理と迅速な対応:
サプライチェーン・マネジメントは、リスク管理と迅速な対応の面でもメリットを提供します。サプライチェーン上のリスク要素を評価し、事前の対策や代替プランを策定することで、ビジネスに潜むリスクを最小限に抑えることができます。また、データのリアルタイムな可視化や予測分析により、急な需要変動やサプライヤーの問題にも迅速かつ適切に対応することができます。これにより柔軟なサプライチェーンを構築し、迅速な対応力を持つことで、市場変動やサプライヤーの遅延、天候災害などの予測困難な状況にも迅速に対処できます。

これらのメリットにより、サプライチェーン・マネジメントを導入することは企業にとって大きな利益をもたらします。コスト削減と効率化により収益性を向上させ、生産性の向上と品質管理の向上により競争力を強化し、リスク管理と迅速な対応力により安定性と信頼性を確保します。さらに、持続可能性への配慮や技術革新の活用により、長期的な成長と市場での地位確立にも寄与することができます。

サプライチェーン・マネジメントは、現代のビジネス環境において不可欠な要素となっており、企業は競争力を維持し発展するために積極的に取り組むべきです。

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サプライチェーンが抱える課題

サプライヤーリスク:
サプライチェーンの中での重要なパートナーであるサプライヤーに関連するリスクが存在します。例えば、サプライヤーの倒産や品質の問題、供給遅延などがあります。これらの問題が発生すると、生産や納期に影響を及ぼし、企業の信頼性や顧客満足度に悪影響を与える可能性があります。

在庫管理:
在庫の最適な管理はサプライチェーンにおける重要な要素です。適切な在庫レベルを維持することは難しく、在庫過剰や在庫不足といった問題が生じる可能性があります。在庫過剰は費用の増加を引き起こし、在庫不足は需要不足や顧客満足度の低下といった問題を引き起こす可能性があります。

情報の透明性と連携:
サプライチェーン内の異なるパートナー間での情報共有と連携は重要ですが、情報の透明性が欠如している場合や情報システムの相互運用性が低い場合、効果的な連携が困難となる可能性があります。情報の不足や遅延は意思決定の遅れや誤りを引き起こし、サプライチェーン全体の効率性に悪影響を与える可能性があります。

リードタイムと供給遅延:
顧客の要求に迅速に応えることは競争上の重要な要素ですが、サプライチェーンにおいてリードタイムの短縮と供給遅延の回避は困難です。需要予測の誤差や生産能力の制約、輸送の遅延などが原因となり、納期遅延や品質低下といった問題が生じる可能性があります。

持続可能性の課題:
サプライチェーンは環境への影響や社会的責任などの持続可能性の課題にも直面しています。原材料の選択や生産方法、物流の効率化など、持続可能なサプライチェーンを構築するための取り組みが求められています。また、環境法規制やCSR(企業の社会的責任)への対応も重要な要素となっています。

リスク管理と災害復旧:
自然災害や政治的な不安定、テクノロジーの障害など、予測困難な要素によってサプライチェーンはリスクにさらされています。適切なリスク管理の戦略と災害復旧計画が必要とされます。災害が発生した場合、適切な対応と迅速な復旧が重要です。

費用と効率性の最適化:
サプライチェーンにおいて費用と効率性のバランスを取ることは重要です。適切な調達戦略や生産計画、物流ルートの最適化などにより、コスト削減や効率化を図ることが求められます。しかし、コスト削減のみに注力すると、品質やサービスに影響が及ぶ可能性もありますので、バランスの取れたアプローチが求められます。

エシカル・サプライチェーンとは?

近年アメリカでは、エシカル・サプライチェーン(Ethical Supply Chain)の議論があります。エシカル・サプライチェーンの重要性は、企業が持続可能なビジネス運営と社会的責任を果たすために欠かせません。消費者の関心が倫理的行動や社会的影響に向けられる中、エシカル・サプライチェーンの導入は企業に信頼性と透明性をもたらし、顧客やステークホルダーからの支持を獲得する助けとなります。

具体的なエシカル・サプライチェーンの改善策としては、サプライヤー評価と監査の強化、情報共有と透明性の向上、労働者の権利と福利厚生の確保、環境への配慮と持続可能な資源管理が挙げられます。これらの取り組みによって、企業はエシカルなサプライチェーンを構築し、労働者の権利や環境保護に配慮しながらビジネスを展開することが可能となります。

エシカル・サプライチェーンの改善は、企業の評価や競争力の向上だけでなく、社会的な責任の達成にも貢献します。持続可能性と倫理的行動が重視される現代のビジネス環境において、エシカル・サプライチェーンは企業の成功と社会的な影響力を高めるための重要な要素となっています。

企業が国際規範や米国の規制を順守するために、人権デューディリジェンスをどのように実践し得るかについてJETROが下記にまとめています。

JETRO: グローバル・バリューチェーン上の人権侵害に関連する米国規制と人権デューディリジェンスによる実務的対応(2022年6月)
NHK: 企業のサプライチェーンから強制労働排除へ 日米連携で合意

これらの課題は、サプライチェーンマネジメントの重要性を浮き彫りにします。企業はこれらの課題に対処し、サプライチェーンを効果的に管理するための戦略やプロセスを導入する必要があります。リスク管理、情報共有の改善、効率化、持続可能性への取り組みなど、総合的なアプローチが求められます。

JETRO: 特集 サプライチェーンと人権

グローバル展開においてサプライチェーンを最適化するためのポイント

アメリカ市場への進出において、サプライチェーンマネジメントの重要性は増しています。情報共有と連携、リスク管理と災害対策、技術の活用とデジタル化、顧客志向と迅速な対応が重要な要素となります。

サプライチェーンの効率化と競争力向上のためには、情報共有と連携を強化し、全体の可視化と迅速な意思決定を実現することが必要です。また、リスク管理と災害対策の強化により、予期せぬトラブルや供給の中断に柔軟に対応することが求められます。

さらに、技術の活用とデジタル化は不可欠です。予測分析や人工知能を活用した需要予測や在庫最適化のツール、リアルタイムの情報共有プラットフォーム、IoTデバイスなどの導入により、効率的なサプライチェーンの構築が可能となります。

最後に、顧客志向と迅速な対応が成功の鍵です。顧客ニーズに合わせた生産・供給体制の構築や迅速な受注処理、返品・交換のスムーズな対応など、顧客満足度を向上させる取り組みが求められます。

これらの要素を適切に組み合わせることで、アメリカ市場で競争力を持つサプライチェーンを構築し、成功を収めてください。

最後に、サプライチェーン・マネージメントの主要テクノロジープロバイダーを挙げておきます。

  1. SAP(ドイツ)
  2. Oracle(アメリカ)
  3. IBM(アメリカ)
  4. Microsoft(アメリカ)
  5. JDA Software(アメリカ)
  6. Manhattan Associates(アメリカ)
  7. Infor(アメリカ)
  8. Descartes Systems Group(カナダ)
  9. Kinaxis(カナダ)
  10. LLamasoft(アメリカ)

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